谷崎 潤一郎の卍

谷崎作品の中では品にかけるメロドラマ
 女性の同性愛を描いた作品として有名だが、実際はこの同性愛カップルを軸としつつも、虚言癖を抱えるお騒がせな美男美女カップルと凡人夫婦、各々のメンバーの間で錯綜する愛憎劇を描いた作品である。

 名古屋のテレビ局が製作した昼のメロドラマみたいなコテコテな展開なのだが、上方上流階級の口語で語られる文体、古き関西旦那文化の匂いが微かながらも薫る舞台設定等が、このストーリーを奇をてらった三流ドラマに堕さずに済んでいるのは流石、谷崎の腕である。だが、しかし。この旧き良き上方の匂いの書き込みという点では「細雪」「春琴抄」等の他作の方に軍配が上がり、本作では寧ろ悪女ヒロインの怪しさを描くことに作者のエネルギーの大半は使われたように思う。(勿論、ここで言う上方の薫りというのも、関東出身の谷崎のエキゾチシズムを通したものではあるが。)

 また個人的に、こういう虚言癖所有者に取り憑かれて大変な苦労を被った体験を持つ僕としては、この作品は読んでいて心臓が痛くなる程にリアルだった。このことが読み進めるのを辛くしてしまい星付けを減点することにしたが、まあそういうアンラッキーな経験が無い場合は、普通にフィクションとしてこの性愛ストーリーを楽しめるのではないでしょうか。

耽美派
我が儘に育てられ、夫のある身でいながら技芸学校で知り合った美女との愛に耽る主人公。同性愛といった稀有な経験を、上方言葉によって妖艶に描き出す。理性によって抑圧されることのない感性は、破滅を伴う美を追い求めるしかないのでしょうか。

「男が女に魅力を感じるのは自然で当たり前のこと。だから女が女を美しいと感じることは美により信憑性を持たせる」

谷崎のエッセンスが詰まった異色作
 関西と女性崇拝という谷崎文学のエッセンスが詰まった作品。しかしながら、本書で扱われる恋愛は同性愛、しかも女性の同性愛であり、さらには女性の関西弁の口語によって話が紡がれており、他の谷崎作品とは明らかに異なる色を放つ作品である。個人的には女性の同性愛そのものにフォーカスをあてた小説を読んだのはこれが初めてだったので、大変な衝撃を受けた。個人的には裸体の模写をきっかけに二人のヒロインが接近していくところに谷崎のエロティシズムを感じており、気に入っているところだ。この作品にはこの二人のヒロイン(園子と光子)に加えて、園子の夫と綿貫という2人の男性が登場し、最後には4人が密接に絡み、破滅への道を辿って行く。綿貫と光子はやっていることは同じようなものだが、光子の方にはそれほど不快感を抱かなかった。『痴人の愛』を読むと、自分までもが悪女に騙されているようかの気になるのに対し、本書では破滅に追いやられるのはあくまでも女性である園子だからかもしれない。

 冒頭で書いたとおり、関西弁を使うというのは斬新な試みではあったが、これは必ずしも成功していないのではないか。非関西人には読みにくいこと甚だしい。また、口語をそのまま使っているということで、段落分けがほとんど使われておらず、非常に読みにくい。この読みにくさがゆえに、途中で投げてしまう人もいるのではないか。


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posted by nana at 16:57 | 注目 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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