最後まで気になる展開

珠玉の8篇
日常のありふれた風景や、失われつつある風景、見たことのない風景。
いろんな風景がつまった一冊です。
一遍一遍に心動かされますが、評することばがなんとか見つかる四篇について書きます。
すごい名作を読むとことばが見つからないものです。それくらいよかったです。

『モノレールねこ』
猫の首輪に他愛ないコメントを紙に書いてはさむと、猫が相手に運んでくれる。
そんな文通をサトルとタカキは続けますが、文面や、
モノレールねこというネーミングも、その猫が手紙を運ぶというのも、ひたすら牧歌的です。

『ポトスの樹』
九割は、語り手による父親への愚痴ですが、ラストでどんでんがえしがあります。
結果オーライの短編。

『ちょうちょう』
ラーメン店を開店した店長と、店員たちの人間模様や谷あり山ありのドラマ。
悪い客に、ネットで中傷記事を書かれてしまい、客足が遠のいていくというハプニングがあり、最後まで気になる展開です。短編ですが、ラーメンでいえば、麺はコシが強いこってり系です。

『バルタン最後の日』
バルタンとなづけられたザリガニの視点で、ひと家族の事情やいろんな思いが語られます。
教科書に載せるか、宮崎駿監督あたりにアニメ化して欲しい名短編です。

著者の魅力を一度に。
本書の著者、加納朋子さんの魅力とは何か。
それは日常のなかでの些細な謎と、人々の暖かさと、それを見出す優しい著者の視線だと思います。

本書はその作者の魅力をいっぺに味わえる作品。
著者の作品をはじめて読む人に、最初に薦めたいと感じる作品でした。

どの話も本当に泣ける。3ページ進むごとにホロリ……というのは大げさかも知れませんが、それくらいの感動はありました。

さて。加納さんの作品が初めてだという人に、本書を薦めたいのは、「感動」以外にも理由があります。

それは、作中の「シンデレラのお城」です。

読んだ方なら分かると思いますが、他の短編とは明らかに趣が異なり、ほんのりダークな作品となっています。ですが、この雰囲気も加納さんの魅力の一つには違いないのです。人が背負っているものは優しさだけではありません。当然、暗い部分も背負っています。当然です。それをふまえた上での、「優しさ」に感動があるのです。ただ「暖かい」「優しい」だけでは感動できないんですよ。
ある意味、人間くさい傲慢さ、計算がなくては「感動」にはならないんです。

余談ですが、「シンデレラのお城」はどこか『コッペリア』にも似たダークさを感じました。

では、どうぞお手にとって表紙を開いてくださいな@

上手な作品はあまたあるが、心がいやされた作品
上手な作家さん、すばらしい作品はあまたある。元気な時にはそういう作品を読もう。
この本はそれほど期待していなかったが、読んでいるうちにすーっと心の中に入り込んで、じわじわと心をいやしてくれる。
自分が忘れていたこと、知らずに傷付き、傷付けていた親子関係。さりげない筆致の中に、人と人の摩擦や隠されていた秘密、ダメ人間の弱さと素晴らしさを気づかせてくれる。
思わずわーっと泣き伏し、許しを請いたい衝動に駆られて、時々本を置き、胸の内をそっとなでまわしてみる。
疲れて気が弱くなっているような、そんなときにこの本を読んでみてください。

モノレールねこ (文春文庫)
加納 朋子

キャディーバッグ


タグ:加納 朋子
posted by nana at 20:11 | 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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