緻密な流れはすばらしかった

最新作『ピストルズ』への序章
阿部和重は表題作「グランド・フィナーレ」で芥川賞を受賞した。

出版当時、私は、主人公がロリコンであるという設定(意図的なものであるはずだが)にあまり興味がわかず、阿部のファンだから購入はしていたものの、ずっと「積ん読」にしてあった。

しかし、どこだったかに、この作品が阿部の最新長編『ピストルズ』のプロローグ的な役割を果たしているというようなことが書かれてあり、あわてて読み始めたのだった。

さて、この作品が芥川賞に値する作品かどうか、また阿部の最高傑作かどうかということは措いておいて、作品自体は決して他のレビュアーの方々が苦言を呈されているほど悪い作品ではないように私には思えた。

特に構成がしっかり練られており、後半の「フィナーレ的なもの」に向かう緻密な流れはすばらしかった。

また、結末はオープンエンドというか、なんともあいまいな終わり方をしているが、そういう手法を選んだことを私は「あり」だと思った。

蛇足だが、本書に収められている短篇「馬小屋の乙女」の英訳が数年前にアメリカで出版されているある雑誌に載ったことがある。

そのバックナンバーはもう品切れで手に入らないだろうが、私はその英訳版も非常に気に入っている。

吉本ばなななどを多く英訳しているMichael Emmerichという人が訳しているのだが、このクセの強い作品を饒舌な英語の文語体でうまく翻訳しており見事だと思った。

興味のある向きはどこかでご一読を。

受け入れがたい“性癖”‥そして浄化
冒頭からいきなりピンクのウサギと青い子グマが登場する。

『レモン風味のドロップみたいな味がする雨粒』など、表現は可愛らしいが、悉く・恰も・纏る・齎す‥などの難漢字を多様する文章。

そして主人公の“性癖”のおぞましさと気味悪さ。

あきらめずに読み進めていくと再生していく希望の光が見えてくる。

受け入れがたい“性癖”に焦点を当てながら、しっかりと彼を非難してくれるIという女性を登場させた点が救い。

作者は新人の時から小説を発表するたびに何かの賞を受賞しているがこの作品でMDMA(合成麻薬)をディティールとして持ってくるのはどうか?作者が服用していないことを望みます。

そしてあの“性癖”でないことも!芥川賞のありかた
芥川賞は作品におくられ直木賞は作家におくられるとか、芥川賞は可能性や才能におくられ直木賞は実績におくられるとか俗説は多くあるが、なぜ阿部和重の「グランドフィナーレ」が芥川賞だったのかと思う。

芥川賞は短編もしくは中篇小説におくられ、直木賞はどんなジャンルの小説をも対象になると区分した黒井千次さんの見解が一番正しいことをこの小説が証明した。

余談はさておき、本小説の評価であるが、ラストのあり方には大いに疑問をもつ。

もっと書いていただきたかった。

あとは読者の解釈に任せるにはあまりにも横着過ぎやしないか。

前半から中盤までのディティールの詰め方がうまいだけに残念に感じる。

それが阿部氏の特徴なのかもしれないが、私は物足りなさを感じる。

書ける能力がある作家だけに何故と思ってしまう。

グランド・フィナーレ阿部和重


タグ:阿部和重
posted by nana at 00:32 | 生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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